遊走子産生の観察方法

芝草水培養プレパラート 徒然なるままに

相手は生き物。そうやすやすとつまびらかに本性を見せてはくれない。Elongisporangiumの最適菌糸生長温度は20~23℃です。この条件下ですぐにたくさん卵胞子を作るグループと、何も作らないで菌糸生長のみがんばってるグループ(時間をかけたら卵胞子をつくってくれる場合もある)と、すぐに巨大な厚壁胞子をつくるグループに分かれるようです。巨大な厚壁胞子をしょっぱなからつくるようなやつは、ほんとにやる気がないなー、やる気見せろよなー、なんて思ってました。でも違うんですね。環境がやる気を呼び覚まさせるんですね。このグループの多くは、最適温度の約5℃低い環境下で水培養してやると胞子嚢を形成し遊走子を放出することがわかりました。しかも特大。100㎛を超えるものもあります。

Elongisporangiumの場合、胞子嚢を形成させて遊走子を産生させるには、生育適温より約5℃低い条件下で水培養するとよいようです。実はハウスの水耕栽培下でよく名前があがる病原菌Globisporangium irregulareも然り。水培養の水の種類によっても形成能は大きく影響されるようです。研究室では土壌抽出液(土壌の種類もさまざま)、池の水、蒸留水を試していますが、種によって反応はまちまちのようです。Elongisporangiumは貧栄養下でよく胞子嚢を形成して遊走子を産生します。低温で栄養がなく生命維持の危険を察知した時、手っ取り早い繁殖方法として遊走子を産生させて移動しようとするのでは?と推測しています。遊走子産生が一段落して、泳ぎ終わったすべての遊走子がプレート底で被のう化した後に、水をすべて入れ替えてやると、菌糸先端からまたしきりに胞子嚢を形成し遊走子を産生してくれます。流水の刺激か、浸透圧か、はたまた胞子嚢形成に対する阻害物質が生育過程で蓄積するとか??、、、何がトリガーになっているのか興味深いところです。

遊走子産生の瞬間の動画は通常、ウェルプレートで水培養して倒立顕微鏡で撮影していますが、水の厚みで細部の焦点がなかなか合いません。もっともっと近づきたい!いろいろ試行錯誤していて、今は方法のひとつとして、スライドガラスに感染させた芝草を置き、カバーガラスとの間を水で満たして培養しながら遊走子を産生させています。OLYMPUS微分干渉顕微鏡BX50やZEISSの位相差顕微鏡AXIO Imager2で観察と撮影を行います。BX50の方がより美しい画像ですが、動画はデータサイズが大きすぎて滑らかな動きで撮影できません。AXIOは画質は少々落ちますが、対物レンズとプレパラートの距離が比較的あることでより高倍率レンズで見ることができます。これで鞭毛の動きや胞子嚢内での分化の様子などがより明瞭な画像で撮影できるようになった気がします。

G. irreglareP. aphanidermatumP. myriotylumなど水耕栽培において大きな被害をもたらします。いずれもハウス内に持ち込まれた卵菌たちが遊走子を形成し水媒伝染することが一つの大きな要因になっています。敵知らずして勝利無し。病害防除のためにも生態を明らかにすることが必勝法なのです。

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