新種を提唱するということ

P5010434 - frame at 1m59s 徒然なるままに
Sporangium

これは新種だ!面白い形態だ!論文発表したい!と決意したのはもう2年以上前になります。そこから先生のサポートもあり、やっとのこと論文が受理されるまでほんとに長かった(…と感じました)。とにかく初回投稿原稿のデータの系統解析のやり直しを求められたり、記載に必要な手続きがたくさんあって、それが手探りで進めていかねばならず、それがいちいちかなり面倒で長く悩まされました。わかりやすいマニュアルがあればいいのに、だれかおしえて~っていうか全部連携してまとめてできないの!?とか悪態ついたりして。次はもっとスマートにやってやる!と決意したのです。

新種記載論文(卵菌の場合)を作成して、投稿、受理されるまでに行った主な作業
1.データをそろえて論文を書く
2.菌株を寄託して、タイプ標本を指定後、標本番号と菌株番号を取得する
3.塩基配列をDDBJに登録してアクセッションNo.を取得する
4.系統樹をTreeBaseに登録する
5.論文を投稿する
6.Mycobankに命名登録して識別番号を取得する

ここでいうデータをそろえるって、新種であることを証明するということ。遺伝的に単系統であるということを示し、その菌種判定に必要な詳細情報を提示するということ。
新種候補は森林域から分離したElogisporangium属の2種。森林域の卵菌類の分布調査で分離したたくさんの菌株の中から、COX1の塩基配列で作成した系統樹から新種であると目星をつけました。別領域のDNA塩基配列を検討しながら、形態観察を行ってデータをそろえていきました。

シーケンス解析は単純根気作業、形態観察は推し活だと思っています。どちらの作業も楽しい。しかし系統解析は難解です。今回は今まで使ってこなかったIQtree2を動かし、Figtreeで描画しMesquiteでアライメントと系統樹を連結させてTreeBaseに登録するという作業に時間がかかりました。いまはIQtree3がでていますね(MEGAは12になってますね、緑色ですね)。常に更新される解析ソフトについていかなければなりません。研究室用のマニュアルですが今回の経験から作成しました。その話はまたのちほど。

Elongisporangiumは人の活動域ではなく、未開拓な森林流域に多く生息しているようです。そのためか分離は稀で、形態も近縁に類似のない特徴を示し、塩基配列からも高い支持率で単系統と示されているにもかかわらず、その情報は不十分です。人間活動が卵菌を拡散させ多様性に影響を及ぼし、その侵入種が大きな被害をもたらす病原菌となっているというのが定説です。しかし何が在来種かわからなければ、何が侵入種かわからないため、分布調査が重要になっています。海に囲まれた日本でさえ6億5千年前にはゴンドワナ大陸の一部でした。スピード感は違うとはいえ常に生物は移動していたはず。やがて島になり仲間たちと別れを告げたグループは独自の進化の道筋をたどったのかもれない。日本の卵菌類の多様性調査の重要性がますます認知されることを願っています。「充実した環境評価データベースのもとで遺伝資源の保全と病害リスク管理ができること」を最終目標にしています。新種提唱はそのワンステップなのです。

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